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文鳥の羽色で学ぶゆる遺伝学 (6)

第6回 白文鳥の遺伝ー実は2種類ある白文鳥変異

 

シナモン、シルバー、パステルと、ここまで野生型文鳥よりも淡い色彩を持つ変異品種を紹介してきました。今回はより身近な変異である白文鳥を生じる変異のお話をします。

タイトルにもある通り、白文鳥を生じる変異は実は1つではなく、2種類の白変異が知られています。愛知県の弥富で生じたと言われている顕性の白変異と、台湾で生じたと言われている潜性の白変異です。成鳥の表現型はどちらも黒い目に真っ白の羽毛で見分けがつきませんが、顕性白と潜性白は全く別の変異ですので、それぞれ分けてご紹介しますね。

 

致死遺伝子でもある顕性白変異

弥富で生じた白文鳥は、成鳥は全身白い羽毛で、目は野生型と同じ黒に近い焦げ茶色、くちばしも野生型と同じです。ひなは基本的に白い羽毛ですが、背中の部分だけは灰色になっています。目は野生型と同じで、くちばしは全体がピンク色で端のみクリーム色をしています。

この白変異は、変異としては珍しいことですが、野生型に対して顕性なので、顕性白(dominant white)の頭文字をとって仮にD(ラージディー)、野生型の遺伝子をd(スモールディー)と表記しようと思います。顕性白文鳥の遺伝子型はDd、野生型文鳥の遺伝子型はddと表記できます。

ここで、顕性白文鳥の遺伝子型がDD/Ddではないことにお気づきになる方もいらっしゃると思います。遺伝子型がヘテロの顕性白文鳥同士の両親(Dd)のひなは、本来ならば遺伝子型がDD:Dd:ddの個体が1:2:1、つまり顕性白(D-):ノーマル(dd)が3:1で生まれるところ、実際生まれてくるひなは顕性白(Dd):ノーマル(dd)が2:1となるのです。これは、遺伝子型DDのひなが卵の中で死んでしまって生まれてこない(致死である)ことを示しています。

つまり、顕性白遺伝子は白変異としては顕性ですが、2つ揃うと致死となる、潜性の致死変異でもあるのです。そのため、顕性白の文鳥は遺伝子型DDの個体は存在せず、全て遺伝子型Ddの個体になります。

顕性白文鳥(Dd)とノーマル文鳥(dd)の両親の間にできたひなは、顕性白(Dd):ノーマル(dd)=1:1の割合となります。

不完全顕性の潜性白変異

台湾で生じた白文鳥は、成鳥は全身白い羽毛で、目は野生型と同じ黒に近い焦げ茶色、くちばしも野生型と同じです。ひなも全身白い羽毛で、目は野生型と同じ、くちばしは全体がピンク色で端のみクリーム色をしています。成鳥の表現型は弥富系の顕性白文鳥と見分けがつきませんが、ひなの時には背中に灰色の羽があるかどうかで見分けることができます。

この白変異は野生型に対して潜性なので、潜性白(recessive white)の頭文字をとって仮にr(スモールアール)、野生型の遺伝子をR(ラージアール)と表記しようと思います。

ノーマル文鳥(RR)と潜性白文鳥(rr)の両親からのひなは、全て遺伝子型Rrとなりますが、ノーマル文鳥ではなく、ごま塩文鳥、あるいはパイド文鳥と呼ばれることもある白羽の多い桜文鳥になります。パイド(pied)とは、”まだらの”という意味です。これはノーマル文鳥と白文鳥の中間的な形質です。潜性白遺伝子は、遺伝子型がヘテロの子の表現型に、両親の形質の中間的な特徴が現れる不完全顕性の遺伝子ということができます。

白変異を含む多重変異体の特徴と遺伝

白変異は顕性白にしても、潜性白にしても、全身の羽が白くなる変異なので、他の変異と重複した場合は、他の変異の特徴を覆い隠してしまいます。

例えば、潜性白変異とシルバー変異をそれぞれホモで持っている個体(rrss)は、ひなの時から真っ白の体に黒い目を持った潜性白変異の個体と見分けがつきません。

顕性白変異がシルバー変異やパステル変異と組み合わさった場合、ひなの時は背中の灰色が薄くなることで顕性白変異単独の個体と比べればなんとか見分けはつくものの、成鳥になるとやはり全身が白羽になるので単なる白文鳥と見分けがつかなくなります。

ただし、シナモン変異との組み合わせの場合は、顕性白変異の場合も潜性白変異の場合も羽毛の色は白であるものの、目の色が赤くなることで単独の白変異と見分けがつきます。

このような白とシナモンの変異を二重に持った赤目の白文鳥は、シナモンパイド文鳥と呼ばれることが多いようです。

特に、顕性白とシナモンの二重変異体は、ひなの時は赤目に加えて、顕性白単独では灰色のはずの背中の色がベージュになるので見分けやすいです。

潜性白とシナモンの二重変異体は、ひなの時から体の羽毛が真っ白で赤目なので、体全体の色素がなくなるアルビノのような見た目です。

成鳥になると顕性白、潜性白どちらの場合も、シナモンとの二重変異体は真っ白の羽毛に赤い目のアルビノのような外見です。

 

遺伝の例としては、例えば顕性白文鳥(DdCC)とシナモン文鳥(ddcc)の両親からは顕性白文鳥(DdCc)とノーマル文鳥(ddCc)のひなが1:1の割合で生まれ、潜性白のシナモンパイド(rrccSS)とシルバー文鳥(RRCCss)の両親からはごま塩文鳥(RrCcSs)のひなが生まれます。

 

今回のまとめ

1. 白文鳥を作る変異は顕性の変異と潜性の変異の2種類ある

2. 顕性白変異は白変異としては顕性であるが、同時に潜性の致死変異でもある

3. 潜性白変異は不完全顕性の性質を示す

4. 白+シナモン=赤目の白文鳥(シナモンパイド)

 

参考文献

伊藤美代子(2015)「幸せな文鳥の育て方」大泉書店

yanagisawa(2013)「文鳥の品種と遺伝 第2版」ララビスのために

山本ら(2001)「台湾産ブンチョウの羽色の表現型とその活用法」愛知県農業総合試験場研究報告33: 331-334