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文鳥の羽色で学ぶゆる遺伝学 (3)

第3回 遺伝子の変異—ゆる遺伝学入門その2

 

前回は遺伝子について詳しく掘り下げました。今回は異なる羽色ができるために必要な遺伝子の変化、すなわち変異についてお話しします。

 

遺伝子の変異

文鳥の場合、元々持っていた羽色は野生で見られるノーマル文鳥のみでした。そこから、全身真っ白の白文鳥、茶色系のシナモン文鳥、灰色系のシルバー文鳥など、様々な品種が生まれました。これらの品種は、色素に関わる遺伝子のDNA配列(A、T、G、C、4種類の塩基の並び方)が変化することによって生じます。このような遺伝子の変化のことを、変異(突然変異)と呼びます。

遺伝子の変異(変化)によって同じタンパク質を設計する遺伝子にも様々な型(DNA配列)のものが生じます。このような遺伝子同士のことを同一遺伝子座(遺伝子の乗っている場所)上の対立遺伝子と呼びます。

 

変異の原因と遺伝

遺伝子の変異(変化)が起きるのには様々な原因があります。例えば、DNAを複製する酵素のミス、太陽光に含まれる紫外線や、細胞内で常に発生している活性酸素によって引き起こされるDNAの切断や化学的な変化、ウィルスやトランスポゾン(動く遺伝子)が入ったり出たりなどするときに引き起こされるDNA配列の挿入や脱離、染色体が集まったり分かれたりするときのミスなどがあります。

生物の体の中では常に多くの変異が生じているのですが、生物はそうした変異を修復したり、変異が起こった細胞を排除したりする機能も持っています。変異の中で、生物の持つ様々な機能によって修復や排除されず、かつ、体細胞ではなく生殖細胞で起こった、あるいは生殖細胞にまで持ち込まれた変異(遺伝子の変化)が、品種を作るような次世代に伝わる変異となります。

目立つ遺伝子、隠れる遺伝子

生物は多くの場合同じ(タンパク質を設計する)遺伝子を2つ持っていますが、2つの遺伝子の型が同じ(DNA配列が同じ)個体の場合をホモ接合体、異なる場合をヘテロ接合体と呼びます。ホモは同じ、ヘテロは異なるという意味です。

(対立)遺伝子の型がヘテロになった場合、どちらかの遺伝子の性質のみが現れ、もう片方の遺伝子の性質は隠れてしまうことが多いです。この時、表現型(生物個体の特徴として表に現れる性質)として出る方の遺伝子を顕性(優性)、隠れてしまう方の遺伝子を潜性(劣性)と呼びます。顕性の遺伝子は1つだけでも表現型に影響を及ぼすのに対して、潜性の遺伝子は同じものが2つ揃って初めて表現型に現れます。表現型として現れるかどうかに関係なく、生物個体が持っている遺伝子の型を遺伝子型と呼びます。

顕性遺伝子は目立ちたがり、潜性遺伝子は隠れるのが上手な遺伝子と言えますね。

同一遺伝子座(遺伝子の乗っている場所=同じタンパク質を設計している遺伝子)で3つ以上の対立遺伝子がある時、例えば、A、a、αの3つの対立遺伝子を持つ遺伝子座の場合、一番顕性な遺伝子(A)、次に顕性な遺伝子(a)、一番潜性な遺伝子(α)でA>a>αのように、遺伝子の表現型への現れやすさに違いが出ることが多いです。この場合だと、表現型はA、a、αの3種類で、遺伝子型はAA、Aa、Aα(表現型はA)、aa、aα(表現型はa)、αα(表現型はα)の6種類になります。

 

野生型の遺伝子と変異によってできた遺伝子

様々な表現型や対立遺伝子の中で、野生で多く見られる表現型や遺伝子型のことを野生型と呼びます。野生型=基本の表現型・遺伝子型と考えていただいて良いと思います。文鳥の羽色に関しては、野生で多く見られるノーマル文鳥が(表現型が)野生型の文鳥、ノーマル文鳥の持っている遺伝子が野生型の遺伝子です。

生物はそれぞれの環境に適応するように非常に精巧な設計で身体を作り上げています。そのため、野生で多く見られる遺伝子に変異(変化)が起きた場合、遺伝子の機能は変わらないか、壊れてしまうことが多いです。

機能している遺伝子と、機能の壊れた遺伝子のヘテロの場合、機能している遺伝子が働くおかげで表現型が保たれることが多いです。そのため、変異でできた遺伝子は潜性であることが多いです。

ただし、中には変異を起こしたことで、遺伝子の機能が壊れるのではなく新たな機能を獲得したり、機能が強化されたり、過剰になったり、片方の遺伝子が壊れただけでもそこからできるタンパク質が働かなくなったりする場合などで、数は少なめですが顕性の変異もあります。

例えば、シナモン文鳥やシルバー文鳥の遺伝子は野生型に対して潜性の変異ですが、弥富で生じた白文鳥の遺伝子は顕性の変異です。

 

 

今回のまとめ

1. 様々な品種は遺伝子の変異(変化)によってできる

2. 対立遺伝子=同じタンパク質を設計する異なるDNA配列の遺伝子同士

3. 表現型に現れやすい顕性遺伝子と隠れがちな潜性遺伝子がある

4. 変異によってできた遺伝子は潜性のことが多い

 

参考文献

B.Lewin (2002)「LEWIN遺伝子」東京化学同人

伊藤美代子(2015)「幸せな文鳥の育て方」大泉書店

yanagisawa(2013)「文鳥の品種と遺伝 第2版」ララビスのために

The Java Sparrow Society UK