第5回 パステル遺伝子 性染色体に乗った遺伝子
第4回ではシンプルな潜性遺伝であるシナモン文鳥とシルバー文鳥の遺伝について説明しました。今回扱うパステル遺伝子も潜性遺伝子ではあるのですが、伴性遺伝であるため、シナモンやシルバーとは異なる遺伝パターンになります。
パステルノーマル文鳥の特徴
パステル変異を持っている文鳥の品種はパステルノーマル文鳥です。シルバー変異は持っていないのですが、ダークシルバー文鳥と呼ばれることもあります。
パステルノーマル文鳥の成鳥は頭と尾羽は濃い灰色、頰は白、胸と背中は灰色、腹は野生型よりやや淡い小豆色の羽色で、目は黒に近い焦げ茶、くちばしは野生型と同じです。ひなは全身野生型よりやや淡い濃い灰色の羽色で、目は黒に近い焦げ茶、くちばしは全体が野生型よりやや薄い小豆色で端のみクリーム色をしています。
パステルノーマル文鳥の羽色は、野生型(ノーマル)の文鳥から灰色系と茶色系の色素両方が少しずつ減ることで現れていると思われます。そのため、パステルノーマル文鳥の変異遺伝子は、2種類のメラニンを作る共通の経路に関わる遺伝子の機能が弱まったものではないかと考えられます。
性染色体に乗っている遺伝子
ここからがポイントで、パステル遺伝子は、潜性遺伝子であるのですが、オスとメスで遺伝のパターンが異なります。そして、その遺伝のパターンから、性染色体のZ染色体に乗っている(Z染色体の中に含まれる)と考えられます。このような、性染色体座乗の(性染色体に含まれる)遺伝子の遺伝パターンを伴性遺伝といいます。文鳥のパステル変異の場合はZ染色体座乗ですが、もちろんW染色体座乗の伴性遺伝もあり、Z染色体座乗の場合とはまた別の遺伝パターンを示します。
第2回のおさらいになりますが、文鳥は76本の常染色体に加え、性染色体として、オスはZ染色体を2本、メスはZ染色体とW染色体を持っています。つまり、性染色体だけを見てみると、オスはZZ、メスはZWです。
Z染色体に乗っていることがわかりやすいように、Z染色体とパステル(pastel)の頭文字pをとって、仮に、野生型のパステル遺伝子をZP(ゼットラージピー)、変異型のパステル遺伝子をZp(ゼットスモールピー)と表記したいと思います。
パステル遺伝子の遺伝パターン
野生型の文鳥(ノーマル文鳥)は、パステル遺伝子についての遺伝子型はオスがZPZP、メスはZPWです。オスはZ染色体が2本なのでパステル遺伝子も2つ持っているのに対して、メスはZ染色体が1本なのでパステル遺伝子も1つしか持っていません。
パステルノーマル文鳥の遺伝型はオスがZpZpでメスがZpWです。
シナモンやシルバーの場合、潜性の遺伝子は、野生型と変異型のヘテロでは顕性の野生型遺伝子が表現型に出るため、潜性遺伝子は2つ揃って初めて表現型として出てきます。しかし、パステル遺伝子に関しては、メスは元々1つしか遺伝子座(遺伝子の乗っている場所)を持たないため、潜性遺伝子もそのまま表現型に現れます。
パステル遺伝子の遺伝パターンはシナモンやシルバーと違い、オスとメスの遺伝子型を区別して考えます。
例えば、パステルノーマル文鳥の父鳥(遺伝子型:ZpZp)と野生型(ノーマル)文鳥の母鳥(遺伝子型:ZPW)から生まれたひなは、オスは遺伝子型がZPZpとなり、表現型(見た目)はノーマル文鳥で、メスは遺伝子型がZpWのパステルノーマル文鳥です。
逆に、野生型(ノーマル)文鳥の父鳥(遺伝子型:ZPZP)とパステルノーマル文鳥の母鳥(遺伝子型:ZpW)から生まれたひなは、オスは遺伝子型ZPZpでノーマル文鳥、メスはZPWのノーマル文鳥で、全てのひなの表現型がノーマル文鳥になります。
遺伝子型がヘテロ(遺伝子型:ZPZp)の父鳥とパステルノーマル文鳥(遺伝子型:ZpW)の母鳥の間にひなができた場合は、オスはZPZpのノーマル文鳥:ZpZpのパステルノーマル文鳥が1:1の割合で生まれ、メスはZPWのノーマル文鳥とZpWのパステルノーマル文鳥が1:1の割合で生まれます。
オスの場合はパステル変異Zpが2つ揃わないとパステルノーマル文鳥にならないのに対して、メスの場合はZpが1つあればパステルノーマル文鳥になるので、パステル変異はメスの方が表現型に出やすい変異であると言えます。
パステル変異を含む二重変異体の特徴と遺伝
パステル遺伝子は、シナモン遺伝子やシルバー遺伝子とは別の染色体に乗っており、二重変異体を作ることもあります。
パステル+シナモン=クリーム文鳥で、パステル+シルバー=ライトシルバー文鳥です。
パステル変異はメラニン色素全体の色を淡くする変異なので、パステル+シナモンのクリーム文鳥(遺伝子型:ccZpZp♂/ccZpW♀)はシナモン文鳥を全体的に淡くした色合いの品種で、パステル+シルバーのライトシルバー文鳥(遺伝子型:ssZpZp♂/ssZpW♀)はシルバー文鳥を全体的に淡くした色合いの品種です。
例えば、シナモン文鳥の父鳥(遺伝子型:ccZPZP)とクリーム文鳥の母鳥(遺伝子型:ccZpW) から生まれたひなは、オスは遺伝子型:ccZPZpのシナモン文鳥、メスは遺伝子型:ccZPWのシナモン文鳥になるのに対して、逆にクリーム文鳥の父鳥(遺伝子型:ccZpZp)とシナモン文鳥の母鳥(遺伝子型:ccZPW)の間に生まれたひなは、オスは遺伝子型ccZPZpのシナモン文鳥、メスは遺伝子型ccZpWのクリーム文鳥になります。
更にシルバーとの3遺伝子での組み合わせを考えると、例えば、クリーム文鳥の父親(遺伝子型:ccSSZpZp)とシルバー文鳥の母親(遺伝子型:CCssZPW)から生まれたひなは、オスは遺伝子型:CcSsZPZpのノーマル文鳥、メスは遺伝子型:CcSsZpWのパステルノーマル文鳥になります。
シナモン、シルバー、パステルの三重変異体(遺伝子型:ccssZpZp♂/ccssZpW♀)もありうる組み合わせです。品種名をつけるならばパステルイノ文鳥になるでしょうか? ただ、潜性の三重変異体は遺伝子の組み合わせが揃う確率がとても低く、それに加えて元々ごく淡い色合いのイノ文鳥が更にパステル化されたものと考えると、イノ文鳥あるいは次回登場する赤目の白文鳥(シナモンパイド)とほとんど見分けがつかないかもしれませんね。
今回のまとめ
1. パステルノーマル文鳥を作るパステル変異は潜性の変異である
2. パステル変異はZ染色体座乗なので、オスとメスで遺伝の仕方が異なる
3. パステル+シナモン=クリーム、パステル+シルバー=ライトシルバー
参考文献
伊藤美代子(2015)「幸せな文鳥の育て方」大泉書店
yanagisawa(2013)「文鳥の品種と遺伝 第2版」ララビスのために