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文鳥の羽色で学ぶゆる遺伝学 (2)


第2回 遺伝子からゲノムまでーゆる遺伝学入門 その1

 

前回、羽色は遺伝子で決まるという話になりましたが、遺伝子とは一体どんなものなのでしょうか?

今回は遺伝子についてもう少し詳しく見てみます。

 

遺伝子が記す生命の設計図

遺伝子とは、親から子へ、さらに孫へと世代を超えて受け継がれていく(遺伝していく)生物の身体の設計情報です。

ほとんどの生命の遺伝情報は、DNAという物質の形で保存されています。(生命と言って良いか微妙なところですが、一部のウィルス(エイズウィルスなど)の遺伝情報はDNAに似た物質であるRNAの形で保存されている場合もあります)

遺伝子は生命の設計情報DNAは多くの生命でそれを実体として保存している物質というわけです。

DNAはデオキシリボ核酸(DeoxyriboNucleic Acid)の略で、デオキシリボースのついた核にある酸という意味です。デオキシリボースとまとまっていると何かの呪文のようですが、分解すると化学物質としての構造がわかってきます。デオキシリボースとは、デ・オキシ・リボースで、デは「取れた」、オキシは「オキシゲン=酸素」、リボースは糖の一種です(“〇〇オース”というのはだいたい糖の一種ですね。例えばブドウ糖はグルコース、砂糖はスクロースです)。少し前に出てきたRNAはリボ核酸(RiboNucleic Acid)の略で普通の(酸素が取れていない=デオキシではない)リボースから出来ている核酸です。

DNAはデオキシリボースとリン酸に、A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)の4つの塩基(酸と結合する物質)のどれかが付いたものが鎖状に重なって並んでいる物質です。

その4種類の塩基の配列が、3塩基で1つの遺伝暗号(コドン)になっていて、1種類のアミノ酸を指定しています。そして、連続する遺伝暗号によって指定されたアミノ酸が次々と繋がってタンパク質を作り、多くのタンパク質が働いて生物の身体を形作っています。このため、『遺伝子(DNA)は生命の設計図』と言われています。

ちなみに、この遺伝暗号は地球上の全ての生命がほぼ共通のものを使っています。つまり、生命の設計図はたった一つの言語で書かれていると言って良いことになります。「人類みなきょうだい」どころではなく、「生命みなきょうだい」、地球上の生命の起源が一つであることを感じさせられますね。

 

生命の設計図の構造

遺伝子のコードされた(書かれた)DNAはAとT、GとCが水素結合によってゆるく結合し、相補的な(お互いを選んでくっつき合っている)2本の鎖で二重らせん構造をとっています。そしてDNAの二本鎖はとても長く繋がっていて、絡まってしまわないようにヒストンというタンパク質に巻き取られ、染色体という形でまとまって収納されています。

生物の持っているDNAは全て1本の染色体にまとまっているわけではなくて、何本かの染色体に分かれて細胞のに収納されています。つまり、染色体何本かで1セットの生物の設計図が完成するようになっています。生物によって違いますが、例えばヒトの場合は23本の染色体(22本の常染色体+1本の性染色体)でヒトの設計図としての1セット、文鳥の場合は39本の染色体(38本の常染色体+1本の性染色体)で文鳥の設計図として1セットです。この1セットのことをゲノムと呼びます。

 

 

2セットの設計図

そして、ヒトや文鳥など多くの生物では1個体は2セット分のゲノムを持っていて、2倍体と呼ばれます。(中にはアリのオス(1倍体)やパンコムギ(6倍体)など2倍体ではない生物種や個体もいます) 文鳥のゲノムは39本の染色体からなり、2倍体なので基本的にこの倍の78本の染色体を持つ核が文鳥の体の細胞(体細胞)ひとつひとつに入っています。

2倍体の生物では、ゲノムの1セットは母方から、もう1セットは父方から受け継いだものです。文鳥の場合、生物個体の体細胞は基本的に78本の染色体を持っていますが、卵子や精子を作るときには減数分裂という特殊な分裂を行なって染色体を半分に分け、染色体数39本の1倍体の生殖細胞(卵子あるいは精子)を作ります。そして卵子と精子が融合して、再び染色体数78本の受精卵を作って子の文鳥が誕生します。

2セットのゲノム=設計図を持っているということは、基本的に同じタンパク質を設計している遺伝子もそれぞれ2つずつ持っていることになります。例外は性染色体上に乗っている遺伝子で、ヒトの場合女性はX染色体を2本(XX)、男性はX染色体とY染色体を1本ずつ(XY)持っています。一方、多くの鳥類ではオスはZ染色体を2本(ZZ)、メスはZ染色体とW染色体を1本ずつ(ZW)持っています。ですので、鳥の場合、Z染色体に乗っている遺伝子はオスが2つ、メスは1つ持っていて、W染色体に乗っている遺伝子はオスは持たずメスのみが1つ持っています。

 

今回のまとめ

1. DNAの遺伝暗号がアミノ酸を指定し、アミノ酸が繋がってタンパク質を、そして生物の身体を作る

2. 遺伝子の書かれたDNAがまとまったものが染色体

3. 何本かの染色体からなる生物の設計図としての1セットがゲノム

4. 多くの生物は2セットのゲノムを持つ2倍体

多くの生物は同じタンパク質を設計する遺伝子を2つずつ持っている

 (ただし、性染色体上の遺伝子を除く)

 

 

<補足> 遺伝子とDNA、染色体、ゲノムの関係

ここで少しわかりづらいのが”遺伝子”と”DNA”はどう違うのか?というところです。

「遺伝子は生命の設計情報、DNAは多くの生命でそれを実体として保存している物質」と書きましたが、もう少し詳しくお話ししてみます。

“遺伝子”は広い意味では主に親から子へ、祖先から子孫へと受け渡される生命としての情報のことで、狭い意味では、広義の遺伝情報の中でも特に、タンパク質を設計している部分のことです。(生命の持っているDNA配列の中には、タンパク質を設計していない部分も実はとても多いのです)

それに対して”DNA”は地球上のほとんどの生命で遺伝子を運んでいる物質の名前です。

ただし、一部のウィルスではDNAではなく似た物質のRNAが遺伝子としての機能を持っていることが知られているので、DNAの形を取らない遺伝子も存在することになりますね。

ちょっとわかりづらいなと感じる方も多いと思うので、例え話で説明してみます。

物語を綴った本があるとしましょう。狭い意味での遺伝子は物語の文章で、DNAは本を作っている素材である紙、DNA上の4種類の塩基がインク、染色体は1冊の本、ゲノムは何冊もの本が集まって物語として完結したシリーズ全体に当たります。文章(遺伝子)は紙(DNA)の上にインク(塩基)で書かれます。そして、文章の書かれた紙が重なって1冊の本(染色体)を作ります。さらに何冊かの本で完結した一つの物語(ゲノム=ある生物の設計図全体)を作ります。

こう考えると、遺伝子とDNAの違いや、染色体、ゲノムとの関係がなんとなく把握できるでしょうか?

 

 

参考文献

ホートンら(1998)「ホートン生化学」東京化学同人

Lewin (2002)「LEWIN遺伝子」東京化学同人

Christidis (1986)「Chromosomal evolution within the family estrildidae aves ii the lonchurae.」Genetica 71